工作室のある暮らし

vol.1 石田夫妻の場合

2020.05.18

今回は、DIY可能な賃貸物件で暮らす石田ゆうすけさん・ゆいさんご夫妻にお話を伺った。
二人が住む稲毛海岸三丁目団地は、西千葉工作室のある京成千葉線・みどり台駅の隣「京成稲毛駅」から歩いて10分の場所にある。

おじゃましたのは3月の初め。5階建ての住居が27棟並ぶ広大な敷地に入ると、気持ちの良い屋外空間に驚く。いまかいまかと春をまつ草木や、ユニークな遊具が並ぶ公園、点々と置かれる愛らしいブルーのスツール。
どこか懐かしい風景を横目に、石田夫妻が住む棟へと向かう。

団地ならではのコンパクトな踊り場を4回折り返して、最上階。
インターフォンを押すと、「息が切れたでしょう。お疲れ様です。」と柔らかい笑顔のゆいさんが出迎えてくれた。

Q1、この部屋に住み始めたきっかけはなんですか?

ゆい:結婚ですね。元々リノベーションのお部屋を探していました。

ゆうすけ:僕は以前設計事務所に勤めていたこともあって内装にこだわりが強いのですが、この部屋は初見で気に入りました。
コンクリート打ちっぱなしの壁もかっこいいなと思って。
割と楽観的なので「いいじゃん、ここにしよう」って感じだったんですけど、彼女は最後まで5階ってことを気にしてましたね。

ゆい:私は家は住めればどこでもいいんです。こだわりがないタイプですね。
ただ、毎日5階まで階段を往復するのはちょっとしんどいかなと心配でした。

ゆうすけ:今はもうすっかり慣れちゃったよね。いい運動です。
収納が一切なかったのは、ちょっとチャレンジでした。

ゆい:そうですね。最初はDIY物件で探していなかったので、収納も自分たちでつくらないと!っていうのは考えどころでした。
でも内装が新しいし水周りも綺麗になってたので、最後には「なんとかなるだろう」って勢いで決めちゃいました。

二人が住む部屋は、日本総合住生活(JS)が団地再生のプロジェクトとして取り組んでいる、DIY可能な賃貸物件。壁には釘が打てる柱が走っていたり塗装できる面が残してあったりと、手を入れる余白は無限大。

 

海外ではDIYの文化が根付いていることもあり、賃貸でも好きなように家をカスタマイズできる物件が多くある。日本でも徐々にそのニーズは増えつつあり、DIY可能物件に特化した不動産サイトなども出てきている。
とはいえ、「最初はDIYしたいって気持ちはまったくなかった」と話す二人は、この部屋でどんな暮らしを送っているのだろう。

Q2、DIYして暮らすことは、お二人にとってはハードルが高かったですか?

ゆうすけ:未知の世界だったから、ある意味ハードルがなかったのかもしれないです。
ただ、事前に団地の周辺を念入りにリサーチしました。西千葉工作室が近くにあったのは決め手の一つだったよね。

ゆい:DIY初心者だったので道具が借りられるのはコスト面で有り難かったし、つくり方を相談したいなと思って。

−嬉しいです。お二人は引っ越す前に棚の設計や組み立て方法を相談しにきてくれましたね。

ゆい:せっかくDIYできる物件に住むので、いろんなものを生活にジャストサイズでつくりたかったんです。
例えば二人とも服が好きなので、クローゼットをつくるときは一番長い服に合わせて大きさを決めたり。

ゆうすけ:最初はどんな道具や作業が必要か全くわからなかったので、相談できてよかったです。
細かいことですけど、耐荷重によって板の厚みを何ミリにしたら良いか、なども不安だったので。
だんだん工作室の使い方もうまくなってきましたね。

ゆい:家ではできないことを工作室で作業して、その他は家でやります。
例えば粉塵が出るやすりがけは工作室、塗装だけで完成しちゃうものは家のベランダで、とか。

ゆうすけ:バッグが置いてある棚は、ホームセンターで切った板を棚受けに置いてるだけです。
やすりがけも塗装もしてないですね。無理せずに、手を抜けるところは抜いてつくっています。

洋服が好きなお2人のクローゼット。「右端の棚は板一枚分を計算しそこねちゃって、上に1枚載せてごまかしました(笑)。」とゆいさん。

洋服が好きな二人のクローゼット。「右端の棚は板一枚分を計算しそこねちゃって、上に1枚載せてごまかしました(笑)」とゆいさん。

壁に走っている柱に棚受けをつけて、板を載せただけのバッグの棚。お手軽DIY。

壁に走っている柱に棚受けをつけて、板を載せただけのバッグの棚。お手軽DIY。

二人の話を聞いていて感じるのは、つくることは“目的”ではなく、“手段”だということ。
彼らは特別DIYが好きなわけではないし、つくることにこだわりをもっている様子もない。
自分たちの部屋、もっと大きく見ると自分たちの暮らしをアップデートするために、「つくる」というスキルを手のうちに増やしているのだ。

Q3、いろいろとDIYするなかで「つくるもの」と「買うもの」の線引きはどこでしていますか?

ゆい:コストや部屋の容量的に、手に届くものを買って手が出せないものをつくりますね。

ゆうすけ:例えば、収納棚とかテレビボードってデザインがいいものは値段も上がります。
そういうものは気に入ったデザインを模倣して、似せてつくることが多いですね。

ゆい:私は鏡台を買おうと思っていたけれど、気に入るものがなくて自分でつくりました。
市販のものだとすごくラブリーなものかアンティーク調のものが多くて。好みのテイストにできたのは嬉しかったですね。

ゆうすけ:ベースは参考にしつつも、気になる部分だけカスタムできるのはつくることのメリットかもしれないです。

ゆい:基本的には夫が「これつくりたい!」と発案して、私が設計図を描くことが多いですね。
ちゃんと設計したはずなのに最後おさまらないこともしょっちゅうあるけど、意外となんとかなりますよ(笑)。

 

ほしいものがあるとき、「買う」という選択肢しか持ち合わせていないとキリがない。
本当に手に入れたいのは“そのもの”なのか、それともその先にある“暮らし”なのか。
後者だとしたら「つくる」という選択肢を持つことで、今よりもっと軽やかに理想の暮らしにたどり着くことができるかもしれない。

Q4、お2人が人生ではじめてつくったもの、覚えてますか?

ゆうすけ:ものではないですが、料理ですね。食べることが大好きなのでよく自分でつくります。

ゆい:私は人形の服です。母に教えてもらってつくりました。
今でも大事に持っているのですが、彼がファンシーなものを好まないのでしまってあります(笑)。

ゆうすけ:そうそう、デザインの好みがまったく合わなかったのは想定外でした。
彼女は白を基調にした明るいテイストが好みで、僕は全く逆。
木材は暗めのトーンが好きだし、無機質なもので部屋を固めたいんです。

ゆい:最初は妥協点を見つけるのがすごく大変でしたね。
あまりにも好みが合わないので、担当部屋をわけることでお互いに妥協しました。
夫がリビング、私が寝室担当なので、寝室には好きなものを心置きなく置いてます。

ゆいさん担当の寝室の神棚には、大好きなサンリオグッズやぬいぐるみがずらり。「パステルカラーも大好き!」だそう。

ゆいさん担当の寝室の神棚には可愛いサンリオグッズやぬいぐるみがずらり。「パステルカラーも大好き!」だそう。

「本当はもっと暗くしたい!」と話すゆうすけさん担当のリビング。板に角材をつけただけのディスプレイラックがかっこいい。

「本当はもっと暗くしたい!」と話すゆうすけさん担当のリビング。板に角材をつけただけのマガジンラックがかっこいい。

ものづくりというと一部の人の趣味や特技と考えがちだが、ゆうすけさんが話すように料理だってものづくり。
手に入る道具と素材を組み合わせて、いろんなレシピを試しながら好みの味を見つけていく。
つくることも同じで、試行錯誤を繰り返してスキルアップしていく。そして特別なスキルは必要なくて、誰でもチャレンジできるのが良いところだ。

Q5、引っ越すとしたら、次もDIYできる家を選ぼう!って思いますか?

ゆい:絶対そうしたいっていうこだわりはないですね。持っていけるものがあれば、できるだけ持っていきたいです。

ゆうすけ:僕もそこにこだわりはないですね。家は”使い易い”ということが大事だと思っています。
使い易ければ新築やリノベーションでもいいし、それが難しければDIYしながら住むのも選択肢としてアリですね。

ゆい:ただ、今の家は自分たちの利便性に合わせたサイズでいろいろつくっているから、設えられた余白のない家だと使いづらいな~って部分が出てくる気がするよね。

ゆうすけ:そうだね。あとは一緒にものをつくってると意外とケンカするから、それも課題(笑)。

ゆい:そうそう、やり始めは「よし、やろう!」ってテンション高めに始まるんですけど、徐々に不穏な空気が漂ってくるよね。
できあがると、「いいじゃーん!」って自然に仲直りします。

柔らかい雰囲気をもつ石田夫妻。インタビューも、飾らずに等身大で答えてくれた。

柔らかい雰囲気をもつ石田夫妻。インタビューも、飾らずに等身大で答えてくれた。

いつも近くのホームセンターで切り出した木材を持って、西千葉工作室にやってくる二人。
その先には、背伸びしすぎずに自分たちの楽しめる範囲でDIYを取り入れる暮らしがあった。

つくることが目的じゃないから、綺麗に仕上がらなくても失敗しちゃっても大丈夫。
ものづくりは生活を快適にしたり、ちょっと楽しくするためのツールの一つなのだ。
そして、そのツールをうまく使いこなすための一端を工作室が担っているのであれば、なにより嬉しい。

高橋鈴佳
高橋鈴佳 | 記事一覧

(株)マイキー プロジェクト推進/「西千葉工作室」店長。1992年生まれ、千葉県育ち。2011年に発生した東日本大震災を機に、被災経験を通した個々人の生き方、そこから生まれる語りに興味を持ちライフストーリー研究を学ぶ。大学で社会学を修学しつつ、NPO法人ETIC.にて学生インターンとして東北での起業支援に携わる。2017年、(株)マイキーに入社。自身も含め日々関わるひとりひとりの個人が、その人らしい生き方をつくっていくことと、大きな社会との楽しい共存の仕方を模索中。facebook: https://www.facebook.com/Osuzudesu   

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