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vol.1「鍛える」/齊藤邦秀(パーソナルトレーナー)

2019.07.19

【人生100年時代をもっと楽しく生きるために。斉藤邦秀さんに聞く「鍛える」初心者のための手引き。】

身体ってみんな持っているし、一生付き合っていくもの。だけど、生活の中で身体をマネジメントしていくのは、どこか自分の手の届かないところにある気がしています。もっと身体と上手に付き合っていくために、今回は「鍛える」という視点からパーソナルトレーナーの齊藤邦秀さんにお話を伺いました。プロのアスリートから一般の方まで幅広い方への対面でのトレーニングのみならず、雑誌「Tarzan」ではおバカなトレーニングで楽しく鍛える「Baka Training college」コーナーの監修や、今年2月に桜新町にオープンしたAI(人工知能)が体の動かし方のクセをチェックするジム「ココサイズ」での最新機器を用いたエクササイズ監修と、その活動は多岐に渡ります。「鍛えることは、生きる上での楽しみを広げることに役立つ」と語る齊藤さんに、自分の身体との付き合い方と鍛えることの面白さを伺ってみました。

怪我をしたことでみえてきた、身体を知ることの面白さ
ー パーソナルトレーナーは、主に人の身体をサポートすることがお仕事ですよね。齊藤さんご自身が身体を動かすことが楽しいと思い始めた、一番最初の記憶っていつですか?

雪国(山形)育ちなので、家から15分のところにゲレンデがあって、小学4年生の頃に地元のスキーのスポーツ少年団に入りました。そこからスポーツ人生がスタートしましたね。スキー以外にもサッカーしたり走り回ったり、年がら年中スポーツしてました。走るのも速い方だったし、その頃は優越感があったのかな(笑)。ただ、本当の意味でスポーツが楽しくなったのは、中学〜高校のときですね。中学のときは野球部、高校では陸上部でした。当時、先生はスパルタで体罰も当たり前にある時代だったから、スポーツをする環境は今よりもっとシビアで苦しかったんです。でも、そういう厳しい環境のなかで、目標を立ててそれに向かって練習していくことがどんどん楽しくなってきましたね。競技のパフォーマンスをあげるためには、フィジカルだけでなく、メンタルや技術、栄養などの必要な要素を因数分解していって、日々なにをするかマネジメントする必要があるんです。自分の身体をこまめに分析して、以前と同じやり方ではだめだから変えてみようと工夫したり。それって仕事をするサイクルとも全く同じで。長く競技を続けてきたイチロー選手やサッカーの三浦カズさんは、年々身体が変わっていく中で、そういったいろんな要素をどういう風に修正していくかを、逆に楽しんじゃってると思うんです。

ー 自分の今の状況をよく観察して、その都度やり方を変えながらベストな方法に修正していくというのは、暮らしや働くことにおいても大事ですよね。ご自身が身体を動かすステージから、人の身体をサポートすることに興味を持ち始めたのは、なにがきっかけだったんですか?

高校三年生のときに、陸上の最後の大会で怪我をしたことが大きなきっかけですね。肉離れのなかでも、一番重度の「完全断裂」をしてしまって。その頃(平成元年)はまだスポーツ医学も普及していなくて、手術をしなかったんです。その怪我がきっかけで「なんで怪我しちゃったんだろう」と、身体に興味を持つようになりましたね。それでもまだアスリートを引退しようとは考えていなくて、大学生になってアメフトにチャレンジしたんです。そうしたら今度はすぐ肩を怪我しちゃって。なんでこんなに怪我ばかりするのかと、疑問でした。でも当時、自分の肩の状態に対して納得のいく答えを出してくれる病院の先生がいなかったんです。10箇所くらい病院を回って、ある整形外科の先生が「きみの肩はこういう状態だから、手術をするかリハビリするかだよ」って教えてくれて。その後リハビリで理学療法士の先生方にお世話になっていくうちに、こうやって人の身体をサポートするのも面白いなって思いましたね。怪我をしたからこそ今がある、みたいなところもあります。

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身体を鍛えることは、楽しく生きるための手段のひとつ
ー 人の身体をサポートする仕事って、それこそ理学療法士やスポーツコーチなどいろいろな形がありますが、齊藤さんはトレーナーという職を選ばれたんですね。

当時のトレーナーという言葉は「医療資格を持つ先生が、身体の外から働きかけて筋肉や関節の状態をよくするセラピスト的なもの」という意味合いが強くて、そういう意味でのトレーナーになりたい気持ちはなかったです。僕は医療資格をとって身体をなおしてあげるのではなくて、身体を鍛えつつ調子を整える、今の時代でいうトレーナーというスタイルをやれるようになりたかった。1から10まで全部トレーナーがやってあげると、受け身になって自分で身体づくりをしないことになってしまうので。そのためにはスポーツ医科学を学ぶ必要があったので、通っていた大学をやめて、勉強できる大学に入りなおしました。自分の理想のトレーナーになるために、勉学の他にも本気でスポーツに取り組んでいる体育会のトレーナーとして学生アスリートの身体をサポートをしていました。一人一人の身体と向き合って、身体のことをいろいろと検証したくて。あとは、スポーツクラブでもアルバイトをしていましたね。スポーツクラブではトレーナーは接客業なので、いろんな人との会話の仕方を学べるんです。今のスタイルにたどり着くためには、いろんなことを同時進行で習得しなきゃいけないなと思って。

ー アスリートのようにスポーツを生業にする方と、スポーツクラブにくるような一般の方では「身体を鍛える」というアプローチ方法は少し異なってきますよね。

 アスリートは成績が良くなるのが一番良い人生だけれど、一般の方はいろいろな生き方があるじゃないですか。それぞれに人生の目標があって、それを達成するために普段のライフスタイルをどうマネジメントするか考えなくちゃいけない。そのライフスタイルにおける手段の一つが「身体」なんです。そこに気づいたとき、一般の方が身体を鍛えることをサポートするのもすごく面白いなって思いましたね。趣味をまっとうするにも身体って絶対に付きまとう。例えば、美味しいごはんを食べることが好きな人がいますよね。美味しく食べるには胃腸が良い状態で働く必要があるし、胃腸が良い状態で働くには肉体的にカロリーを消費しておかないといけない。そういう意味では身体って、生きる上でのすべての活動に関わってくるんですよね。ただ、アスリートみたいにやる必要はない。アスリートは1億2500万人のうちのほんのちょっとで、多くの人はそうじゃないですから。自分の身体を鍛えて姿勢が良くなったり、関節可動域を広げ続けることは、生きる上での楽しさが増えたり活動が広がることに役立つんです。そこに気付くきっかけを、多くの人に生み出したいと思っています。日本は世界の先進国に比べてフィットネス参加率の割合が少ないというデータもありますが、実は数値でみるより身体を動かしている方は多いんです。ウォーキング、ランニング、ヨガ、ピラティス、ラジオ体操など、全部ひっくるめると、意識的に運動している人口は20%近いと言われてます。スポーツをしたり身体を動かすことって、どうしても趣味のカテゴリーに入りがちで、後回しになる。でも、できるところからちょこちょこでいいんです。本来は身体を動かすことって、すべての人のライフスタイルに必要な行いなので、そのパーセンテージがどんどん上がっていくと良いなと思ってます

まずは身体を知る。そのために役立つ最新のテクノロジーやAI。
ー それぞれの人が理想の暮らし方、生き方をするための手段として「身体」があるってことですね。スポーツを生業にしない一般の方が自分の身体をマネジメントしていくときに、どんなことから始めたら良いのでしょうか?

なにごとも「知る」がスタートです。学校教育では、まず自分の身体がどうなっているかを知ることを教えてほしい。自分の姿勢が客観的に見られたり、肩や股関節の可動域が知れたり。身体のデータを知ることができると、どんな病気にかかりやすいか、どこを怪我しやすいかということがわかってくるんです。そうすると、予防するために鍛えた方が良い身体の部分が知れる。あとは、自分の生活と身体の状態を知れると良いですね。医療の世界だと健康診断や人間ドッグがありますが、フィットネスの世界は自分の身体を知ることがなかなか難しくて、手軽に知れるのは体脂肪率くらいでした。今は、Apple Watchなどのウェアラブルな機器が1日の歩数や消費カロリーを全部計算してくれるので、自分の生活パターンは簡単にわかります。僕はそれぞれの腕に一つずつつけていて、一つは心拍計と活動量計が24時間の活動を強度によって色わけしてくれます。これを見ていると、平日と休日の活動パターンの違いとかもみえてくるし、1日、1週間、1ヶ月の単位での活動量も知れる。歩数だけをみるのではなく、全体の活動量をみていくとだんだんと身体のことがわかってくるんです。もう一つの機器は、肌に触れる部分にセンサーがついていて、血管のなかにどんな成分が取り込まれているのかみてくれます。これによって摂取カロリーが大体わかっちゃうんです。取り込んだ成分の中でPFCバランス(protein=タンパク質、fat=脂質、carbohydrate=炭水化物)をどれくらいの比率でとっているのか計算してくれるので、今日はバランスが偏ってるなというのが手軽にわかるわけです。こういった機器のほとんどが携帯のアプリと連動しているので、日々生活しているなかで簡単にデータもチェックできる。技術やテクノロジーはものすごく進歩しているので、一般の方ももっと積極的にこういう機器を使った方がいいと思ってます。できれば世の中の人全員につけてほしいし、国から配られてもいいくらい(笑)。最近はデザイン性が高い機器も多いので、日常生活でつけていても違和感がないですよ。そうやって一人一人が自分の身体の特徴や状態を知ることができると、人生100年時代をもっと楽しく生きられると思うんです。

ーみんながこういった機器を当たり前のリテラシーとして活用できたら、もっと自分の身体が手の届く範囲に近づいてきますね。齊藤さんは、AIが体の動かし方のクセをチェックして、個々にあった運動プログラムを提案してくれるジムを監修されて、つい先日桜新町にオープンしましたよね。
 
 身体を知る手助けをするのに、AIはすごく有効なんです。先日オープンしたジムでの体のチェックは、決められた動きを4パターン行うだけで、AIがその人の動作のクセを認識して服の上から関節のポイントの状態をみてくれます。可動域が何度あるかとか、体の軸がどのくらいぶれているのかを数値化できるんです。それを踏まえて、身体の主要な関節のうちどの部分を最初に整えるといいか教えてくれる。例えば、あなたの場合は左肩が一番最初に整えるポイントだから、そのためにこのエクササイズをしましょう、とかね。他にも、100箇所以上の評価項目があって、項目の組み合わせによって適切なトレーニングを指示できるように、アルゴリズム化したんです。僕の脳みそがまるっとAIに入っている感じですね(笑)。自分自身では気づけない身体の状態を外の目からサポートするのがトレーナーの役割なんですね。その役割をAIにも担ってもらうことによって、もっとたくさんの人が自分の身体を知る機会を提供できると思っています。一般の方にはまだまだトレーナーの使い方って届いていないと思うので、そういったテクノロジーも含めてうまく付き合ってもらえると良いですね

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「整える」はベースライン。「鍛える」ことで変化が起きてくる。
ー 「知る」が第一歩なんですね。確かに闇雲にトレーニングを始めて、結局成果が見えないまま挫折してしまう人も多いのではないかと思います。

最初は気持ちがあるけど、継続して身体を変えていくことに脱落してしまう方はたくさんいらっしゃいます。鍛えることは手段のひとつでしかないので、それを行うための目的がみえている方が続けられますよ。それは、かっこよく服を着こなしたいとか、なるべく健康に長生きしたいとか、仕事のパフォーマンスを上げたいとか、どんな些細なことでも良いんです。僕が20年以上サポートしているクライアントの男性は、鍛え始めたきっかけは腰痛をなおしたいっていう相談でした。病院にいっても治らないし、最後は鍛えるしかないって思ったみたいなんですね。最初は身体を鍛えることにはまったく興味がなかったけど、今は本当に楽しい生き方をしてるんですよ。身体に自信が出てくると全体的なオーラも違ってくるし、服装が変わってくる。20年前は女性も見向きもしなかったけど、今は寄ってくるからねって言っています(笑)。最近は身体を鍛えたい、綺麗になりたいという目的以外でも、身体をマネジメントしていくことが大切だという認識も少しずつ広がってきているように感じます。僕の場合は、ワークコンディショニングといって、企業に対してレクチャーにいくことが増えました。仕事をする上で、体調が悪くなるとハイパフォーマンスにはならないので、そこをしっかりつくっていきたいっていう需要ですね。多くの方の人生においては、働くことで長い時間を過ごしますし、みんながいい形で働き続けられれば国としてのパフォーマンスもあがっていきますから、良い取り組みだと思っています。

ー 齊藤さんは会社の理念として「ちょうどいい生き方」を大切にされていますよね。齊藤さんが考える「ちょうどいい」ってどういう状態をイメージしていますか?

ちょうどいいっていうのは、身体を鍛えることに関わらず、自分と向き合って「ここまでかな」「いやもうちょっとがんばってみよう」と、トライしながらつくりあげていくものだと思ってます。人それぞれ理想の暮らしや生き方は違うので、正解があるものではない。鍛えることでいうと、本来のストイックさはもちろん、生活の中での時間の余裕も関係してくると思います。一人一人がその人らしいやり方を見つけていくのが良いですね。最近は短期集中型で身体を改造することを謳っていますが、あれだけ厳しくやったら成果が出るのは当たり前です。ただ、人生っていう長いスパンで考えたときに、それを成果って呼んでいいのか僕にはわからない。身体っていうのは恒常性があるので、一時的に変化したとしても元の状態に戻っちゃうんですよ。なのでリバウンドするっていうのは自然なことなんです。身体を変えたいのであれば、半年~1年間続くものに挑戦しながら、目標に向かって少しずつ変わっていくのがいいですね。最近ヨガやピラティスなど、身体をほぐす・整えるということが注目されだしていますが、整えるっていうのはベースラインで、マイナスをゼロに戻す感覚。整えることによって決定的な病気にはなりにくいですが、そこから上にいくのは正直難しいんですね。でも整える状態が当たり前になってくると、もう少し上のことがしたくなる瞬間が訪れるんです。それを「鍛える」っていう手段で、一段二段引き上げてあげる。鍛えることで筋肉が張りにくくなるし凝りにくくなるので、実は予防の意味合いも強くなります。鍛えることは最大のディフェンスなんです。鍛えることを続けていくと、自分の身体やメンタルが少しずつ変わってきて、今までとは違うことに挑戦できる余裕ができたり、違う世界が見えてくる瞬間があるんです。自分がアップデートされている感覚ですね。その変化はすごく面白いんですよ。

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▪️齊藤邦秀/パーソナルトレーナー
1972年生まれ。山形県出身。横浜国立大学中退。東京学芸大学教育学部生涯スポーツ専攻運動処方選修卒業。1998年、大学卒業とともに老舗のスポーツトレーナー会社へ就職。様々なアスリート・スポーツチーム・芸能人のトレーナ-として活躍。2004年独立。2006年(有)Wellness Sports設立。低体力者~アスリートまで幅広くトレーニング指導・健康づくり指導を行う。  2007年より、全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会を迎え入れ、日本支部の副代表に就任。パーソナルトレーナー資格認定事業の日本展開に力を注ぐとともに、キッズ・シニア・ダイエット・ゴルフ等のカリキュラムを開発しながら全国各地でトレーナーを育成。これまでに約10000名のトレーナー・運動指導者を育成する。2016年、ランニングフィットネスラボ設立、日本メディカルフィットネス研究会常任理事就任。ランニング中のフォーム判定をするメガネ「JINS MEME RUN」公式トレーナーカリキュラムを開発。2018年、5冊目の出版となるボィメンテエクササイズ(成美堂)出版。体づくりのオンラインコミィニティ-DMMオンラインサロン「セルフボディメンテナンス」やインターネットラジオ「渋谷ポジラシ”」でのパーソナリティも開始。フィイットネス×ICT分野の開発にも多数参画。音声fitnessアプリBeatfit、カラダ評価に初めてAIを活用したコンディショニングジム「ココサイズ」のコンテンツ監修を手掛ける。現在は、医療とスポーツ・フィットネス分野をつなぐ役割として、医師や理学療法士とともにエクササイズプログラムを開発しながら、日本各地でアスリート・スポーツチーム・ 企業・学校・行政などへの講演活動や運動指導、教育コンサルティングを行っている。TV・雑誌の出演、監修多数。

高橋鈴佳
高橋鈴佳 | 記事一覧

(株)マイキー プロジェクト推進/「西千葉工作室」店長。1992年生まれ、千葉県育ち。2011年に発生した東日本大震災を機に、被災経験を通した個々人の生き方、そこから生まれる語りに興味を持ちライフストーリー研究を学ぶ。大学で社会学を修学しつつ、NPO法人ETIC.にて学生インターンとして東北での起業支援に携わる。2017年、(株)マイキーに入社。自身も含め日々関わるひとりひとりの個人が、その人らしい生き方をつくっていくことと、大きな社会との楽しい共存の仕方を模索中。facebook: https://www.facebook.com/Osuzudesu   

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