Vol.7 失敗を生かすワザ
2018.03.28
「失敗は成功のもと」という言葉は皆さんもご存知のことと思います。失敗することによってやり方を改めることができ、かえって成功へと繋がることになるから、一度や二度の失敗にくじけるべきではないという意味があります。本屋さんに並ぶ子育て本にも、こどもの内にたくさん失敗を経験しておいた方がいい、なんてフレーズをよく目にします。
でも実際に目の前のこどもが失敗しそうになると…思わず口を出してしまいますよね。「そこに積み木を置いたら崩れるに決まっているのに」とか、「その計算方法だと後々面倒くさくなるのに」とか、経験を重ねた大人は少し先が予測できてしまうので、先回りをして防いであげたくなってしまうのです。でも、あんまり先回りしすぎるとケンカになってしまうことも。こどもからしたら、なんでダメなのか分からないのに、もしくはピンときていないのに、自分の行動を阻止されて、「いちいち口出ししないでよ!いつもダメって言う!」という気持ちになってしまうのでしょう。「こどもの為を思って言っているのに…」と呟いている親御さんをよく見かけます。
夏休みのワークショップ「世界一長く回るコマ」の様子
エコールリーブルや他のボランティア先でも、親子で参加できるワークショップを開催すると、ついつい口出しをしてしまう保護者の方がちらほら。そのうち自分が主導でやってしまう方もいたりします。私自身、あんまり効率の悪いやり方をしている子がいると手取り足取りやってしまいたくなるときがありますし、保護者の方の気持ちはとてもよくわかります。かわいいわが子の作品がよいものになってほしいという思いがあれば、私以上に手を貸したくなってしまうでしょう。しかしその思いをぐっと堪えて見守ってみると、思いがけない成長を見ることができるかもしれません。
「あそび場」のチラシ
先日、松波こども会の皆さんが開催する「あそび場」に、エコールリーブルが企画者として参加させていただく機会がありました。遊びを提案しながらこどもたちと外遊びをしたのですが、休憩時間は水分補給をしつつ、自由に遊び始めます。数人の子がブランコに乗ると言ったので、私は安全を見守るつもりでついて行きました。しかしその日の前日は雨。ブランコの下には水たまりが広がっていました。どうするのかと見ていたら、「水たまりをなくそう!」ということになりました。この発想に至るのがこどもたちらしいですね(笑)
水たまりをなくそうとチャレンジするこどもたち
試行錯誤の末に
水路をつくり始めました
作業は水路をつくることから始まりました。はじめは水路に水が流れ込むだけで歓声が上がりましたが、細い溝をつくるだけでは途方もない時間がかかることに気づきます。そこで水路の先に新たな池をつくり、水を移す作戦に変更。でも水たまり一個分の水を貯めるにはそれだけの穴を掘らないといけませんよね。これもなんだか大変そうです。休憩時間内に終わるのかしらと心配になって、アドバイスをしてしまおうかと思ったときでした。一人の子が画期的なアイディアをひらめきます。それは、左二つの水を右二つの水たまりに移すこと。もとからある水たまりを大きくするのは簡単だし、たしかにそれならできそうな気がします。
作業がどんどん発展していったのはこのときからでした。左から右へ水路が引かれ、一本だった水路は効率を考えて三本に。途中、水が逆流する問題に直面すると、高いところから低いところに流れる水の性質に気づいて、水路は左から右に傾斜をつける工夫がなされました。右側がいっぱいになると、木の板を持ってきて水門をつくったり、水を周りの砂に撒いて染みこませたりします。「蒸発って聞いたことあるね」と、教科書の言葉も飛び出しました。作業の発展と共に、こどもたちの間で役割が生まれ、分業制のようになっていく様子も見られます。
最後、左側の水たまりがすっかり空っぽになったとき、私はこどもたちの問題解決能力に感心すると同時に、思考の発展の一部始終を見たことにとても興奮しました。もし、最初の段階で私が口出しをしていたら、こどもたちはこんなに達成感のある顔をしていなかったと思います。自分で発見し、解決し、達成した一連の経験の中での気づきや思考は、必ずこどもたちの中に残ります。人に教えてもらうのでは得られないものがそこにはありました。
こどもたちとの集合写真
でも、いつでもこどもたちが自分で解決策を見つけられるとは限りません。あそび場での出来事は失敗から成功にうまくつながった例ですが、なかなか次の段階に進めなかったり、試行錯誤することを諦めてしまったりすることだってよくあります。そんなときには、もちろん手助けが必要です。ではこのとき、こどもたちの思考を遮らないよう注意すべきことは何でしょうか。せっかくの失敗の経験を上手に生かしたいものです。実は教育現場には、あえて失敗を取り入れる授業があることをご存じでしょうか。学校では正しいことを教わって、それに従って課題をこなすというイメージがある方も多いかもしれませんが、近年の授業は思考力や問題解決能力を重視しており、その形も変わりつつあります。
私が失敗をうまく取り入れた授業を見たのは、以前教育実習でお邪魔した中学校です。体育のサッカーの授業で4つのキックの仕方を習得する場面があったのですが、先生は蹴り方を教えません。まずは教科書を見て自己流でやってみるように促しますが、なかなかコツのつかめない生徒たち。その後、気づいたことを共有してうまく蹴るためのポイントを確認すると、見違えるように上手になりました。はじめからポイントを教えられるのではなく、一度うまくいかない経験をすることで、アドバイスされたことの意味がより理解されやすくなり、納得がいくのだそうです。重要な部分を生徒に印象付けることもできます。
理科では質量保存の法則を勉強した後、わざと法則が成り立たない実験をさせることで科学的思考を育てる授業が組まれていました。自然界での現象は、複数の要因が複雑に影響し合って起きています。教科書のように単純明快ではありません。習ったことを確認するだけだと思い込んでいる生徒たちは予想が裏切られ、効果てきめんでした。そこから法則が成り立たない要因が探られていきます。
実際に使っている実習記録簿。先生方の授業から得たヒントがたくさん詰まっています
いくつかこのような授業を見ているうちに、アドバイスや提案の上手なやりかたが見えてきました。それは、自分たちで挑戦させ、その子なりの方法や選択を一度認めてあげてから、よりよい方法を提示すること。失敗しても、とりあえず自分で考えてやってみることにとっても大きな意味があるのです。むしろ、失敗したから見えてくることがたくさんあります。
勉強、遊び、生活。様々な場面でのこどもの学びや成長において、効率や出来栄えは二の次で、大切なのはその途中に得られる発見であり、そのプロセスなのではないでしょうか。私自身、この気づきを、エコールリーブルの活動でのさまざまな体験の過程で発見しました。こんなことは文字にしてしまえば当たり前で、教育学部の授業でも再三教わることなのですが、それを経験の中で確認できたことにとても意義を感じています。このような経験の場をいっしょにつくってくれているこどもたち、保護者の方、関係者の方々に、この場を借りて感謝の気持ちを伝えられたらと思います。失敗から得た日々の小さな気づきを、エコールリーブルの活動に還元するのを楽しみに、今日も活動に向かいます!
(くらうち)