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vol.11 総理

2016.10.20

総理
山口敬之 著
2016年 幻冬舎

企業ジャーナリストの矜持

内閣総理大臣。それは国政の最高責任者であり、一国の代表と言ってしまっても良いだろう。新聞やテレビで取り扱われない日はない、VIP中のVIP。それだけに、メディアでは様々な議論が飛び交っている。政策の内容、発言、その他一挙手一投足について、テレビキャスターや大学教授、評論家、芸能人といった実に多くの方々が意見を述べているのは、みなさんもワイドショーやニュース番組等、もしくはSNSやバイラルメディア等で目にしていることだろう。

では、わたしたちは果たして「総理」がどのような仕事で、現職の総理はどんな人物で、その政権がどのように運営されているのか、といったことについて、どれだけ知っているだろうか。どんな政策があり、その内容がどのようなもので、それが実施されたか否か。そして結果としてはどうだったか。また国会答弁での発言(失言)や振る舞い、といったことについてはよく議論されているように思うが、その政権を担う人々や具体的な行動にフォーカスした報道はあまりないように感じる。

彼らが何を目指して動いているのか、何に悩み、どう結論を出していったのか。そういったことは、そもそも政治家本人から語られる機会もないだろうし、メディアも取り上げようがないのかもしれない。でも、彼らの意思決定が自分たちの生活の一部を担うものである、という有権者視点に立って考えたとき、わたしたちが国を任せている人がどんな人で、どんな考えを持っているのか。そして実際どんなことをしているのか、といった情報もあったりすると、わたしたちとしても、より腑に落ちた形での意思決定(投票行動)ができるかもしれない、ですよね。

本書はそんな一般国民が普段触れる「断片的な情報と色のついたプロパガンダ」とは一線を画した代物である、とのこと。「取材対象に肉薄する」というジャーナリズムを信望する著者が、TBSにて政治記者となった2000年から見続けてきた、現内閣総理大臣である安倍晋三と、彼を取り巻く人間模様について記したノンフィクションである。日本政治の中枢に関わる様々な人種と関わり続けてきた著者だけに、その内容は非常に具体的で臨場感のあるものとなっている。安倍晋三や、現副総理兼財務大臣の麻生太郎らの、意思決定の最中に残した実際の発言がふんだんに盛り込まれている様は圧巻。ページを捲る手を止めることは難しい。

著者は「政治家に肉薄した記者が、政治中枢における目撃と体験を公開することで初めて政治のリアリティが国民に伝わる」と考えている。そしてそれは正に、最前線の現場で生身の政治家の息遣いを感じた著者だからこそできることに他ならない、のだと思う。本書が提供する政治家、そして「総理」のリアリティは、わたしたちが政治について如何に「何も知らない」かを教えてくれる。本書自体が「プロパガンダでなくジャーナリズムの仕事に屬するものであるかどうか」の判断は、読まれた方々にお任せするが、現政権への判断材料の一つとして、一度読まれてはどうだろうか。メディアで語られる論調への盲従ではなく、自分の考えや感覚で判断を行うための一助にはなるかもしれない。

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