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vol.10「しがらみ」を科学する

2016.09.08

「しがらみ」を科学する 高校生からの社会心理学入門
山岸俊男 著
2011年 ちくまプリマー新書

社会という名のインセンティブ構造

小学校の頃、同級生が使った言葉でよく覚えているものの一つに、「みんな」というものがあった。「みんながやっているから」「みんなが持っているから」「みんなそう言っていたよ」というような形で、誰かにとっては自分の意見や要求を正当化するために、はたまた誰かにとっては、まるで何かしらの強制力を感じるようなものとして機能していたのではないかと記憶しているが、みなさんもこのような「みんな」を使った、または誰かから使われた経験はお持ちではないだろうか。

しかしこの「みんな」という言葉に、あまり実態がなかったというような記憶もある。「みんな」とは誰のことだ、と問われると、大抵は数名の名前が出てきて終わる。「みんな」という言葉は、さもほとんど全員ということを意味していそうで、実は幾人かの意見を参照したものでしかない、ということがよく起きていた気がするのだ。ただそのとき、「みんな」を使った本人は、決して意図的に数名の意見を「みんな」と読み替えたわけではないのだと思う。きっと、それは本人にとってはリアルな「みんな」だったのではないだろうか。

こんなことを思い出させてくれたのが、わたしたちが身を置く社会という「しがらみ」の構造を説明する本書である。著者によれば、人は実は「みんな」にどう思われるかを気にしている。そして、その「みんな」から好ましい反応を得るのに都合のいい仕方で行動しあっている。これを「世間」と呼ぶ。そこでの共通理解は「空気」、ということになる。すると、その「空気」に従わざるを得ないと思っている人々が、「空気」に従う行動をとることで、その「空気」を強化する。それこそ、その「空気」が現実化してしまうことを意味する。結果、わたしたちは自分で自分の自由を縛りつけ、私たちが誰も望んでいない行動をとる、ということが起こり得る、ようなのだ。

個人的な話になるが、自分が幼かった頃は「空気」があまりよくわからなかったような気がする。だから自分のしたいように振る舞うわけだが、周囲のあまり喜ばしくない反応により、「空気」の存在を思い知らされることとなった。そんな記憶が結構ある。こうして「みんな」からの好ましい反応というものが、この社会で生きていく上でのインセンティブ(人に対して行動を促す外的な動機付け)として機能するようになっていくのかもしれない。しかし、そのインセンティブに基づき、自分たち自身が周囲にあわせて行動をとることこそが、結局は自分自身の考え方や行動や生き方を縛りつけることになっていると著者は言う。実際自分としては、その後多少「空気」を読んで行動するようにはなったが、あまり楽しくはなかった気がするし、そもそも「空気」を読むことができているのかも、甚だ怪しい。

このような軋轢、みなさんも大なり小なり感じたことがあるのではないだろうか。斯様な経験をすると、人によっては、ともすれば自分を否定する一つの材料にしてしまいかねない気もする。しかしこれが、わたしたちの暮らすこの社会というインセンティブ構造によるものだったと知ることができれば、その時否定してしまった(かもしれない)自分のことを、改めて許容する一助になるのかもしれない。少なくともわたし個人にとっての本書は、あまり楽しくはなかった経験の所以を理解する手助けをしてくれた、爽快な読後感をもたらす良書でした。

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