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vol.8 成功することを決めた

2016.08.10

成功することを決めた
遠山正道 著
2011年 新潮文庫

世の中の体温をあげる

商社、と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。「ラーメンからミサイルまで」という、商材の幅広さを形容する言葉もあれば、あまり想像できないような大きいスケールの仕事、ということもあるかもしれない。合コンでは引く手数多だという都市伝説はさて置いて、少なくとも、日常生活とはかけ離れた印象を持つ方が多いのではないだろうか。

本書の著者、遠山正道は、総合商社の雄、三菱商事に就職。その後ケンタッキーフライドチキンに出向、Soup Stock TOKYOを企画し、立ち上げていく。このプロット、そしてタイトルからしても、一見派手できらびやかなストーリーのように感じられるかもしれない。しかし、読んでみると決してそうではない。彼の実感をもとにした等身大の言葉遣いによる紆余曲折の描写は、本書を成功するためのビジネス書ではなく、彼の人生譚といった趣を強くしているように感じる。

彼の実感志向とも呼ぶことができそうなスタンスは、Soup Stock TOKYOができる際、企画書段階からも通底しているようだ。本書に全文収録されている企画書は、わかりやすく共感してもらいやすいよう、シーンを描く物語形式のものとなっている。珍しいものだと思うので、是非一度目を通して欲しい。「日々の生活そのものを立ち止まって見つめ、生活自体に価値を見出し、それを少しでも拡げて充たしていけることのお手伝いをしていこう」とするのが彼の会社の目指すところであり、実感をもとに手触り感のある、身の丈にあった価値を追求していくあたり、およそ「商社」という言葉から想像する、数字やスケール感といったイメージとは対極にあるものではないか、と思う。

一人の人間が、理屈を超えた何か、熱病のようなものに突き動かされながら、感性をもとに行動を起こす。それが共感を呼び、価値を生む。たびたび困難に直面しながらも克服し、さらに自分や世の中の「幸せ」を追求していく。「世の中の体温を少しでもあげられれば」という思いで、考えるよりもまず走ってきた著者自身の物語は、穏やかで柔らかな筆致でありながらも、読者の体温をもあげてしまうかもしれない。

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