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vol.7 はじめての福島学

2016.08.09

はじめての福島学
開沼博 著
2015年 イースト・プレス

議論の地平を整える

東日本大震災から早いものでもう5年が過ぎてしまった。この地震の余波は、未だ日本に影響を残し続け、今も完全に収拾されたわけではない。大きな津波が起こってしまったこと。原発事故による放射性物質の漏洩。避難を余儀なくされ、かつ帰る見通しの立たない方々。放射線の影響に関する強い懸念など。様々なものが絡み合って、特に原発事故の直接的な影響を受けた福島に関する議論は、どんどん複雑なものになってしまったように感じる。

この複雑さに焦点を当てたのが本書である。著者は福島問題の現在について、幾つかのテーマに分け、冷静に、且つ丹念に、データと理論を積み重ねながら、整理していく。「避難」「賠償」「除染」「原発」「放射線」「子どもたち」といった、福島の問題を語る際によく使われる、一見わかりやすいような言葉のみに拘泥し、思考停止に陥らないよう、結論を早計に出さないようにしながら、「数字」と「言葉」を往復しながら語っていくことを旨としているのである。

独自の複雑な文脈を持ってしまった福島の状況について語ることは、生半なことではない。誰かが傷ついたと感じることもあるかもしれないし、各々の立場の主張をぶつけ合うような状況に陥ってしまうこともあるだろう。しかし著者の持つ、「学問的に、体系的かつ継続的に分析・考察し、知の蓄積を行っていく」スタンスは、きっとこの問題について議論をするための地平を整えてくれるのではないだろうか。少なくとも、わたしは読後、この問題に向き合う上で、頭も感情も多少整理された自分を発見することができたように思う。

また、この著者の姿勢は、この先に起こるかもしれない、わたしたちが遭遇せざるを得なくなるような、また異なる複雑な問題に対する処し方の、一つの参考にもなってくれるはずだ。

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