vol.1 断片的なものの社会学
2016.02.04
『断片的なものの社会学』岸政彦
2015年 朝日出版社
「人生は、断片的なものが集まってできている」
大した意味なんてないのに、なんだか記憶に残っている…。そうした日常のふとした瞬間や誰かの一言というのは、誰もが知らない間に、頭の中に蓄積しているのではないだろうか。
関西の大学に所属する社会学者の岸政彦が、自身の研究のために行った膨大なインタビューや、日々の生活で出会った人々。そして自分が目にしたものの中で、なんとなく記憶に残っているものを丁寧に掘り起こし、それがどんな理由で印象に残ったのかを彼なりに解釈し、エピソードごとにまとめたものが本書の内容となっている。
多くのエピソードが、岸が経験した固有のものであるはずなのに、「わたしにもこんなことあったな」と思い出し、いたるところで共感してしまう。それはなぜかを考えながら読み進めていくのも楽しい。そして、関西弁での考察が温かみがあって優しく、読んでいてとても心地良い。
この本は、ビジネス書みたいに、何かタメになるわけでもなければ、小説みたいに奇想天外なストーリーが繰り広げられていくわけでもないのだけれど、著者の記憶に自分の記憶を重ねながら、気がつくと次のページをめくってしまう、そんな本だ。読んだ後は、穏やかな気持ちになって、「人生って、日常って、おもしろい」と、毎日のちょっとした出来事を大事に積み重ねていきたいなと思わせる、そんな一冊だ。